このページができたのは:2018年11月7日


<ちいさいページ 19>


蒼柴神社

(2)

このページの写真は,とくに示したものをのぞいて 2018年8月17日に撮りました。


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このページで,上付きの数字や文字を付けたところは,ページの最後にまとめて示した本やウェブサイトからの引用です。

まえのページ(蒼柴神社(1))には,主な社殿(本殿,幣殿,拝殿)の造りや配置のことを,ちょっと予定外だったのですが,書きました。

この葉っぱをクリックすると,「蒼柴神社(1)」のページに替わります。新しいウィンドウを開きます。


このページでは,「蒼柴神社のページを(作ってみよう)」と思ったときの,最初の考えにたちかえり:

本で覚えた,古い木造の建物の,いろいろな部分を指す用語(呼び名)を,蒼柴神社の社殿に当てはめてみる

という練習を,まずは拝殿についてやってみようと思います。

とはいうものの,この例題の出題範囲を拝殿だけに限っても,このページだけでは,答を書きつくせそうもありません - 答案は,適当なところで区切りながら,いくつかのページに分けて書いてゆこうと思います。

蒼柴神社の拝殿は,これは,まえのページに書いたことの復習ですが,「正面五間,側面三間」の入母屋造平入で,正面には,三間の向拝(こうはい)がつき,背面には幣殿が続いています。ちなみに,「正面五間,側面三間」というところは,平入の建物ですので,「桁行五間,梁間三間」ということもできそうです。

この葉っぱをクリックすると,本殿の裏側から撮って,本殿と幣殿が続いている様子が分かる写真〔2018年8月17日〕に替わります。

写真1: 拝殿の正面

写真2: 拝殿の側面(向かって右 - 南側)
建物の大きさは,『蒼柴神社誌』9)によれば:

桁行六間 梁間三間 建坪拾八坪

だということです。尺貫法で示された値を,メートル法に直せば: 桁行10.8 m,梁間5.4 m,建坪26.4 m2(畳36枚分)のようになります。



写真3: 拝殿の側面(南側)

この葉っぱをクリックすると,数字を書き込んでいない写真に替わります。

左の写真は,拝殿の右手(南側)に回って撮りました。画面の左側が正面,右側が背面です。

この写真のなかで目立つのは,4本の柱と,写真のなかに「1-1'」や「2-2'」のような数字で示した横に長い木材です - 木材という言葉の据わりがよくないので,棒や角材のような言葉も考えてみたのですが,五十歩百歩のような気がしてしまい,そのままになっています。

柱の上(軒の下)にある組物(くみもの)この葉っぱをクリックすると,組物に印を付けた写真に替わります) も,柱や桁などが「棒」のように見えるのとちがって,立体的で目を引く存在なのですが,これについては後まわしということにしたいと思います - このページの下のほうで少し考えてみました。

柱をつないでいる横に長い木材は3段になっていて,下にあるものから上にあるものの順に:


1-1'
内法長押(うちのりなげし)
2-2'
頭貫(かしらぬき)
3-3'
台輪(だいわ)


と呼ばれ,それぞれに:

内法長押は柱の途中に打ちつけられて;
頭貫は柱の上端につくられた凹部にはめ込まれて;
台輪は柱の頭貫の上に重ねて

とり付けられているようです。
建物の下のほう(軒より下の,建物全体から屋根を除いた部分)は,ごく大まかには,縦の柱と横の頭貫で造られた針金細工の直方体のようなもので,これが歪んだり揺れたりしないように,長押と台輪で締めつけるという考えで造られているのだろうと思います。

ちなみに,建物の下のほうの,箱のような部分(建物の本体)を作っている骨組を「軸組(じくぐみ)」といい,上のほうの,屋根を作っている骨組を「小屋組(こやぐみ)」というようです。軸組を「軸」や「軸部」と呼び,小屋組を「小屋」と呼ぶ人もいるようです。

台輪よりも高いところに見えているのは:


4-4'通肘木(とおりひじき,とおしひじき)
5-5'丸桁(がんぎょう,がぎょう)


で,通肘木は組物の一部として使われ,丸桁は組物の上に置かれています。

ところで,これはまったくの「みち草」なのですが:

この葉っぱをクリックすると,「みち草」を食わずに,次の「本題(写真4)」に進みます。

建物の前のほうにある3本の柱のあいだ(つまり,2つの柱間(はしらま))には,それぞれに板戸が吊り上げられ(はね上げられ)ていますが,これは,柱のあいだにガラス戸が入るまえに使われていた「半蔀(はじとみ)* 」の上半分だろうと思います。

*
半蔀というのは,建物のまわりをふさぐ建具(つまり,戸)の一種で,1枚の蔀戸を上下分けて,上のほうの半分ほどは,内法長押(1-1')の下につけた横木(「楣(まぐさ)」)に蝶番(あるいは,蝶番の「ようなもの」)で吊って開閉し,下のほうの半分ほどは,柱につけた桟(さん)のあいだに挟んで(正式には「立て込ん」でというようですが)取り外ししながら使うものだということです。

この葉っぱをクリックすると,半蔀の下のほうを立て込むために使っていたらしい桟(さん)の写真〔2018年10月21日〕に替わります。また,柱には,桟の少し上あたりに細長い穴があけられていますが,この穴の位置は,はね上げられた蔀戸の縁についている金具の位置に合っているように見えますので,下ろした半蔀を固定するために使われたのだろうと思います(この葉っぱをクリックすると,蔀戸の縁に付けられた金具が写っている写真に替わります)。

本来の蔀(蔀戸)は「格子の間に板を挟むか裏から打つかして」4)作るもの(そのために,「御所言葉では蔀といわずに格子と呼んでいる」1))ということ)ですが,蒼柴神社の「蔀戸」には,それよりずっと簡単に作られた板戸(板戸としても,簡単なほうだろうという気がします)が使われています。この「蔀戸」が,初めから使われていたのかどうかは分かりませんが,建具のようなものは,建物の本体(軸組や小屋組に使われている大きな柱や梁)よりも頻繁に修理されたり交換されたりすることがありそうですので,そのときに,このような「蔀戸」になった(なってしまった)のではないかという想像もできそうです。

蔀戸を立て込むための桟は,3本の柱のうちの両はしの2本には付いていましたが,まん中の1本には,桟を止めていた釘の跡らしい小さい穴が残っているだけで,もう付いていませんでした。外した半蔀が近くに置かれている様子もありませんでしたので,半蔀の下のほうは,もう使われていないのだろうと思います。上のほうも,昼も夜も,ずっとはね上げられたままになっているようで,戸としての役目は終えて,神社の建物らしい雰囲気をだすための飾りのひとつになっているように見えました。


写真4: 拝殿の軒下(南側,後ろ寄り)

この葉っぱをクリックすると,数字や図形を書き込んでいない写真に替わります。

左の写真は,拝殿に近づいて,軒下の様子がわかるように撮りました - 拝殿の側面(南側)の,いちばん後ろの部分です。

次の表には,番号を付けたところの名前を,下にあるものから上にあるものの順に列べました。(名前のあとに「 * 」が付いているものについては,あれこれと調べているうちに分かってきたことを(私が想像したことなども含まれていますが)表のあとに書き加えてみました。)


1

2-2'
頭貫(かしらぬき)
3-3'
台輪(だいわ)
4
組物(くみもの)*
5
組物 *
6
蛙股(かえるまた)
7-7'
通肘木(とおりひじき,とおしひじき)
8
支輪(しりん)*
9
支輪板(しりんいた)*
10-10'
丸桁(がんぎょう,がぎょう)
11
隅木(すみき)
12
地垂木(じだるき)*
13
木負(きおい)
14
飛檐垂木(ひえんだるき)*
15
茅負(かやおい)


のようになりそうです - 黄色いところに書いてあるのが,この表で初めて出てきたものの名前です。
上の表のなかで「 * 」を付けたものについては,次のようなことが分かってきましたので書きとめておきたいと思います - その中のいくつかは,私の感想や想像ですが:

4 組物についての詳しいことは,あと(写真5と5'のところ)で書こうと思うのですが,これは「出組(でぐみ)」と呼ばれる種類の組物です。

組物というのは,「斗(ます)」と「肘木(ひじき)」という部材を組み合わせて作るものなのですが, この葉っぱをクリックすると,左上の写真の「4」の部分(出組)を例にして,「斗と肘木」が,どこに使われているのかを示した写真に替わります。

組物の多くは,桁を高いところに「持ち上げ」たり,壁から離れたところに「持ち送る」ために使われます - 「持ち送る」というのは聞きなれない言葉ですが,「持ち上げる」というのが,ものを上に移すことに対して,ものを横に移すこと(長いもののときには,平行移動すること)をいうようです。この段落のはじめに「(組物の)多くは」と書いたのは,組物のなかには「持ち上げる」だけで,「持ち送る」ことをしないものがあるためです。

5 これについても詳しいことは後まわし(写真6,7のところ)にしようと思うのですが,建物の隅(側面と背面が交わるところ)に使われているために,斜めの肘木(隅肘木(すみひじき))が加わって,複雑な組物になっています。

6 蛙股には,次のような種類があるそうです:

板のように全部塞(つま)っているものと,なかが透けているものとがある。前者を板蛙股(いたかえるまた),後者を本蛙股(ほんかえるまた)という。そして後者には,さらに一つの木片から刳り抜いた場合と,二材を合掌に組み合わせた場合とがある。それぞれ刳抜蛙股(くりぬきかえるまた),透かし蛙股(すかしかえるまた)と呼ぶ。1)

蒼柴神社の拝殿に使われている蛙股は「一つの木片から刳り抜い」てあるように見えますので,「刳抜蛙股(くりぬき - )」なのだろうと思います。

8 支輪という言葉は:

通し貫や通し肘木と丸桁の間,折り上げ天井の四周などにおいて,湾曲した堅木をある間隔に配列したもの4)

つまり,横に長く,上端が下端よりもせり出した「壁」(壁といっても,たいていは表面が滑らかなわけではありません)を指すこともあるようですが,そのような「壁」を作るために使われる,長さが数十センチの「縦の材」4)で:

断面方形の少し湾曲した材1)

を指すこともあるようです。

壁としての支輪にはいくつかの作りかたがあるようで,仕上がったときの形に応じて:「蛇腹支輪(じゃばらしりん)」「菱支輪」「雲支輪」などのように呼ばれるものがあるそうですが,蒼柴神社の拝殿に使われているのは蛇腹支輪だろうと思います。蛇腹支輪は「和様建築での普通の支輪」4)だということで,そのために,「本支輪(ほんしりん)」と呼ばれることもあるそうです。

9 支輪の:

最も基本的な型は,断面方形の少し湾曲した材を適当な間隔に並べ,その間に板を張ったもの1)

であり,その板のことを「支輪板(しりんいた)という」1)というそうです。

支輪(断面方形の材)のあいだを「埋める/塞ぐ」ための方法には:

支輪のあいだに縦に長い板を差し込む;
支輪のあいだに,支輪とおなじようにゴロンとしたものを裏側から嵌め込む;
なん本かの支輪をまたぐような,横幅のある板を支輪の裏側に張り付ける

という方法があるようです(ほかにもあるかも知れません)。3番目の方法の「張り付ける」というのは,釘付けにするということだろうと思うのですが,詳しいことは分かりませんでした。

蒼柴神社の拝殿では「横幅のある板を支輪の裏側に張り付ける」という方法が使われているらしく,そのことは,この葉っぱにリンクした写真を見ると分かります - 3本の支輪をまたいで支輪板が割れているところがありますので,少なくとも,その部分(丸で囲みました)については1枚の支輪板が使われているのだろうという考えです。

12, 14 垂木の名前は地垂木と飛檐垂木ですが,軒としては,軒下に地垂木が見えている部分は「大軒(おおのき)」といい,飛檐垂木が見えている部分は「小軒(このき)」というそうです。また,大軒と小軒でできている軒のことを「二軒(ふたのき)」(に作られた軒)というようですが,「日本建築の本格的なものは,たいてい二軒」1)なのだということです。二軒があるからには,「一軒(ひとのき)」や「三軒(みのき)」というものもあるようで,一般的な傾向としては,一軒は簡素な建物や,本格的な建物であっても古いものに使われ,三軒は,現存する例は少ないということですが,特別な建物に使われるのだということです。

ところで,二軒のときは,軒は大軒と小軒,垂木は地垂木と飛檐垂木ということで,2という数によく対応するのですが,三軒のときの軒や垂木の名前はどうなるのだろうと思います。軒は「大・中・小」のようになるのかも知れませんが(ならないのかも知れませんが),垂木のほうはちょっと想像がつきません。「檐」というのは軒とか庇という意味のようですので,「飛檐」となれば,軒や庇を高く持ち上げるという意味になりそうですが,二軒の2つ目(小軒)で「飛檐」してしまうと,その先(三軒の3つ目)を持ち上げる垂木は,どのように呼べばよいのでしょう - 細かいことですが,気になります。


写真5: 出組
左の写真には,写真4で「4」という数字をつけて示したところが写っています - 斗(ます)と肘木を組み合わせてつくる組物で,この場合は「出組(でぐみ)」と呼ばれる種類の組物です。ちなみに,肘木のことは「栱((きょう)」ともいうそうですので,組物を「斗と栱」の組み合わせだと考えて,「斗栱(ときょう)」と呼ぶ人もいるようです。

出組の仕事のひとつは:

軒や天井を支えるための桁* を,柱の頂部よりも高いところに「持ち上げる」

ことで,これは,あらゆる種類の組物が同じようにしている仕事です。ところが,組物のなかには,出組もそのような組物のひとつなのですが,桁を「持ち上げる」だけでなく:

軒や天井を支えるための桁を,壁から横に離れた位置に「持ち送る」

という仕事もしているものがあります。

*
組物は,建物の外側にも内側にも作られて,組物が建物の外側に作られれば「丸桁(がんぎょう,がぎょう)」を支えることになり,組物が建物の内側に作られれば「天井桁」を支えることになるようです。このページに出てくる組物は,どれも建物の外側(軒下)に作られたものですので,丸桁を支えるために使われています。

「持ち送る」というのは,「持ち上げる」に比べると,聞きなれない言葉ですが,ものを横方向に移すこと(基準の位置から離れるように,という気持ちを含めて)を表しているようです。

ちなみに,「壁から」というところは,「側柱(がわばしら)の柱筋(はしらすじ))から」といい換えることができそうです。側柱というのは「建物の最も外回りに立つ柱」1)を指しています。

出組が桁を持ち送る距離は,ひとつの斗の中心から,そのとなりの斗の中心までの間隔になりますが**,この距離を「一手先(ひとてさき)」といい,出組が桁を持ち送る長さの単位として使われます。出組よりも大がかりな(したがって複雑な)組物のなかには「二手先(ふたてさき)」や「三手先(みてさき)」などのように,出組の2倍,3倍の距離を持ち送るものもあるそうです。

** ひとつの肘木の上に載る斗(方斗,巻斗などの小斗(こます))の数は3つが標準になっているようですので,「一手先」というのは「肘木の半分(の長さ)」ということもできそうです。ひとつの肘木の上に載せる斗の数が4つや5つということもあるようですが,3つの場合に比べると,例が少ないような気がします - 使う場所が限られているからだろうと思います。

二手先や三手先という言葉は,ある組物が持ち送る距離を表すだけでなく,それだけの手先を持ち送る組物の種類を示すためにも使われます - たとえば,持ち送る距離が二手先の組物は,二手先という名前で呼ばれます。ただし,出組だけは例外で,「手先からいえば一手先であるが,そうはいわないで出組という」1)そうです。


写真5': 出組

上の写真(5')は写真5と同じものですが,文章での説明がしやすくなるように,使われている部材(斗や肘木など)を示すための数字や英字が書き込んであります。

出組は,次のようにして作られます(括弧でくくって示した数字や英字は,左の写真に書きこんだ数字や英字に対応します):

i)(1)の上に大斗(d)を載せる;
ii)大斗の上に枠肘木(4-4'と5-5')」を載せる;
iii)枠肘木の一方の先端(5)に方斗(h)を載せる;
iv)方斗の上に秤肘木(7-7')を載せる;
v)秤肘木の上に3つの巻斗を載せる;
vi)3つの巻斗の上に実肘木(9-9')を載せる;
vii)実肘木の上に丸桁(10-10')を載せる。

上の「i)~vii)」に関連して,次のようなことが分かりましたので,書きとめておこうと思います(文頭のローマ数字の番号は,上の箇条書きの番号に対応しています):

i) 大斗というのは,組物のいちばん下に(つまり,柱の頂部のすぐ上に)載せる斗のことですが,左の写真のように,柱や頭貫の上に「台輪」を載せ,その上に載せることもあるようです。

大斗という名前は,一つの組物のなかにある斗のなかで,いちばん大きく作られるからということで付けられたのだろうと思うのですが,大斗というと,前の段落にも書いたように,柱のすぐ上に(ということは,ひとつの組物のなかのいちばん下に)ある斗だということを意味します - いちばん大きい斗だから大斗ということと,いちばん下にある斗を大斗ということは,表裏一体の関係です。

柱や頭貫の上に台輪を置くのは,もともとは,鎌倉時代に中国(宋)から伝わった禅宗様(唐様)のスタイルで,それが時代が下ると,神社と仏閣のちがいによらず,和様の建物でも使われるようになったのだということです。

江戸時代の中期(天明元年(1781)9))に建てられた蒼柴神社の拝殿も,そのような移り変わりのなかで生まれたために,台輪が使われているのだろうと思います - 造られたころの形式が,そのまま残っていれば(修理のときに変更されていなければ)という条件つきでの想像ですが。

ii) 「5'」という数字は,写真のなかにはありません。柱の列(柱筋)と垂直に置かれている肘木の,建物の外側にある部分を「5」としましたので,その反対側の,建物の内側にあって見えない部分を「示す」ために「5'」としてみました。

iii) 枠肘木(わくひじき)というのは,2本の肘木を直交させて,一方は柱筋と平行に,もう一方は柱筋に垂直になるように,大斗や方斗(この場合は大斗)の上に載せたものを指す言葉です(2本の肘木で,1つの枠肘木になります)。

この位置に載せる小斗には,方斗と三方斗(さんほうと)の二とおりが考えられますが,この場合は,秤肘木(7-7')の先(外側)に木鼻(8)を掛けるために,方斗を使っているのだろうと思います。

方斗や三方斗,あるいは巻斗のように,組物の途中(大斗と実肘木のあいだ)に使われる斗は,まとめて「小斗(こます)」と呼ばれます。小斗は,組物のいちばん下に置かれる斗(大斗(だいと))に比べて,ひとまわり小さくつくられます(大斗が大きく作られる,といっても同じことですが)。

iv) 秤肘木(はりひじき)というのは,ひとつの小斗(巻斗か方斗)の上に載っている,柱筋と平行な肘木のことで,その上に3つ(両端に一つずつと,中央に一つ)の小斗を載せるために使います。「秤(はかり)」というのは,天秤(てんびん)の「秤」から来ているのだということです。

写真5': 出組

少し上に貼ってある写真をもういちど貼りました。

次の表には,写真のなかの,数字や英字がついているところの名前を,下のほうにあるものから上のほうにあるものの順に列べてみました - 背景が黄色くなっているところが,ここで初めて出てくる名前です。名前のあとに「 * 」を付けたものについては,あれやこれやと調べているうちに分かってきたことを(なかには,私の想像や感想のような,頼りないものもありますが)表のあとに書きくわえてみました。


1

2
頭貫(かしらぬき)
3
台輪(だいわ)
d
大斗(だいと)
4-4'肘木(ひじき)
5
肘木(の半分)*
h
方斗(ほうと)
m
巻斗(まきと)
6-6'
通肘木(とおりひじき,とおしひじき)*
7-7'肘木(秤肘木(はかりひじき)
8
木鼻(きばな)*
9
実肘木(さねひじき)*
10
丸桁(がんぎょう,がぎょう)
11
支輪(しりん)*
12
支輪板(しりんいた)*


上の表のなかで「 * 」を付けたものについては,次のようなことも分かってきました(一部は私の感想や想像ですが):

5
肘木の残りの半分は建物のなかに入っているので見えません - 見えていれば「5'」のように書きたいところなのですが。

この肘木(5-5')と「4-4'」の肘木が大斗(d)の上で交差して,「枠肘木(わくひじき)」になっています。

6-6' 組物と組物のあいだを「通って/渡って」いる長い肘木を,組物のあいだに蛙股や間斗束(けんとづか)が入るばあいも含めて,「通肘木」と呼ぶようです - 形は,ただの長い棒で,あまり肘木らしくないのですが。

8
木鼻は,形や付いている場所,あるいは作りかたのちがいによって,いろいろな名前で呼ばれます。この場合は,形は拳鼻(こぶしばな,こぶしはな));付いている場所は,建物の中(軸組と小屋組の境あたりからだろうと思うのですが,正確なことは分かりません)から伸びてきた梁の先;そして,作りかたとしては,梁とは別の材料で作って取りつけた,「掛鼻(かけはな)」と呼ばれるものだろうと思います。

9
桁の下面に接して,桁を直接に支える肘木のことで,標準的な出組の場合には,秤肘木(7-7')の上に並んだ3つの巻斗の上に載せられます。

実肘木の両端は「いくつかの曲線を連続させてつくりだした凹凸の多い輪郭をもつ」4)ように作られていますが,このような形を「繰形(くりがた)」と呼ぶようです。繰形が付けられるものには,実肘木のほかに,「蛙股,懸魚,木鼻など」4)があるそうです。

11, 12 支輪のあいだから,支輪の裏に張ってある支輪板(しりんいた)が見えています。


図6 隅の組物

この葉っぱをクリックすると,部材の名前を書き込んでいない写真に替わります。

左の写真は,拝殿の隅(向かって右の前)に使われている組物の様子です。写真4の「5」の部分とおなじように作られた組物なのですが,建物の前(写真6,左の写真)と後ろ(写真4の「5」の部分)という違いがありますので,拝殿の横から見ると,左右が反対になっています。

写真に書きこんだように,垂木(軒下に並んでいる角材)の向きが変わるところに掛かっている「隅木(すみぎ)」を境に,その左側が拝殿の正面,右側が側面になっていて,正面の丸桁と側面の丸桁がここで交差しています。

そのために,正面の丸桁を支えるための出組と,側面の丸桁を支える出組も,建物の隅で直交しなければなりません。一つの出組でも立体的で複雑なのに,二つの出組が入り乱れれば(じつは,整然と組み合わされているだけなのですが)さらに複雑な組物になってしまいます - 私の,これを初めて目にしたときの感想は,「複雑な」というよりも,「奇怪な」ものを見たということだったような気がします。

もっとも,それからひと月くらい,何度となく実物を眺めたり,写真を見たりしているうちに,「奇怪な」という印象はしだに薄れ,複雑さの原因も,二つの出組のあいだに「隅肘木(すみひじき)」という,斜めの肘木が加わっているためらしいと分かってきました。隅肘木が加わることによって,出組の秤肘木が長くなり,1本の肘木の上に4つの小斗が載っていることも,隅の組物を複雑にしている原因のようでした。(秤肘木には,普通なら3つの斗が載るはずですので,4つの斗が載っている肘木を,秤肘木と呼んでよいものなのかどうかは分からないのですが。)

隅肘木を使う理由は,正面と側面の丸桁には,互いに交差したあとに,それぞれに先に伸びて垂木を支え,それによって軒を支えるためなのではないかと思います(なにかの本かウェブサイトに,そのような説明があったわけではなくて,私ひとりのいい加減な想像ですが)。軒を支えるためには,たいていは,桔木(はねぎ)や力垂木(ちからだるき)のような,梃子の原理を利用した部材が使われるようなのですが,丸桁の先が垂木に接しているのも,軒を支えるためのような気がします - 軒の端のほうを支えているだけですので,軒の全体をみたときに,どれだけの効果が期待できるのかは分かりませんが。

この組物は,隅肘木が加わって複雑になってはいても,基本的には出組ですので,「隅にある出組」だということを表す用語があるのではないかと思いながら,かなりしつこく捜してみたのですが,それらしい用語は見つかりませんでした。古建築の分野で使われる用語の数はというと,素人の目には,「なんで(こんなに)」とおどろくほどなのですが,それにもかかわらず「隅にある出組」を表す言葉がないというのは,ちょっと不思議な感じがします - 「ほんとうに(ないんだろうか)」という不安がまったくないわけでもないのですが。

組物の種類を問わなければ:

建物の隅にある組物を隅備(すみぞなえ)
建物の隅以外にある組物を平備(ひらぞなえ)

という用語で分類できるようなのですが,組物の種類を出組や一手先などのように限ってしまうと,「隅出組と平出組」や「隅一手先と平一手先」などということは「ない」ようです。


写真7: 隅の組物(側面,正面との角)

この葉っぱをクリックすると,数字や英字を書き込んでいない写真に替わります。

次の表には,隅の組物に使われている部材の名前を,下のほうにあるものから上のほうにあるものの順に列べてみました。写真4,5,6に出てきたものも含まれていますが,この写真で初めて出てきた部材には,背景に色をつけて示しました。名前のあとに「 * 」を付いているものについては,あれこれと調べているうちに分かってきたことや,私が思ったり想像したりしたことがありましたので,表のあとに書きたしてみました。


1

2-2'頭貫*
3
正面の頭貫(木鼻,頭貫鼻)*
4-4'台輪*
5
正面の台輪(木鼻,台輪鼻)
d
大斗*
6-6'
肘木(肘木「7-7'」との対で枠肘木)
7
肘木(肘木「6-6'」との対で枠肘木)
m
巻斗
8
隅肘木(すみひじき)*
9-9'通肘木*
h
方斗
o
鬼斗*
10-10'肘木*
11
正面の通肘木(木鼻)
12
正面の肘木(側面の肘木「10-10'」との対で枠肘木)
13
木鼻*
14-14'実肘木*
15
正面の実肘木*
16-16'側面の丸桁*
17
正面の丸桁(端部)
18
隅木*

上の表のなかで,「 * 」を付けたものについては,次のようなことも分かってきました(一部は私の感想や想像ですが):

2-2'
10-10'
柱よりも左側の部分(2')は頭貫の「木鼻(きばな)」なのですが,頭貫の先端(鼻)なので「頭貫鼻(かしらぬきばな)」ともいうようです。

この木鼻(2')は,柱(1)より右に見えている頭貫(2)とは材質(木の種類)がちがうように見えますし,高さ(成(せい))もちがうようですので,頭貫とは別の材料で作って,頭貫の先に「掛け」たものだろうと思います。このように作られた木鼻のことは「掛鼻(かけばな)」というようです。

3
正面の柱の頂部をつないできた頭貫が,隅の柱(1)を突きぬけて,側面に出てきたところです。「2'」と「3」はおなじ形に作られた木鼻で,「2'」の部分を左から(つまり,木鼻の先のほうから)見ると,「3」のように見えることになります。

4-4'側面の台輪が正面の台輪と交わった先の部分(4')は,「台輪の木鼻」という気持ちで,「台輪鼻(だいわばな)」というようです。

d
この斗は,形は「鬼斗(おにと)」のように見えるのですが,組物のいちばん下(柱のすぐ上)に置かれていますので「大斗(だいと)」と呼ぶのがよいのだろうと思います - 形のちがいによって「巻斗,方斗,三方斗,鬼斗,延斗(のびと)」のように分けるのは,肘木の上に載せられる「小斗(こます)」についてだけのような気がします。

大斗の形が鬼斗のようになっているのは,枠肘木(6-6'と5-5')のほかに,隅肘木(8-8')が載っているからで,普通の(平備(ひらぞらえ)で使われる)大斗なら斗の四隅に付いているブロック(この部分の名前が分かりません)のうちの2つが,隅肘木の「通りみち」になって邪魔にされ,削りとられて,2つだけ残ったということなのだろうと思います。

この葉っぱをクリックすると,大斗がよく見える写真〔2018年10月20日〕に替わります - 組物のなかに使われている隅肘木と,隅肘木の上に載っている鬼斗の位置も示しました。

大斗の形は,鬼斗のように作られているのですが,よく見ると,鬼斗よりも複雑に作られているようです。鬼斗なら正方形の四隅のうちの,対角の位置にある2つの隅に,断面が正方形の柱を立てたような形に作られるのですが,この大斗にはそのほかに,枠肘木と隅肘木のあいだにできた隙間をうめるような細い三角柱が作られています。

この葉っぱをクリックすると,「細い三角柱」に丸をつけて示した写真〔2018年10月20日〕に替わります。

この葉っぱをクリックすると,大斗を上から見た図のなかに「細い三角柱」の位置や肘木(枠肘木,隅肘木)との関係を示したページに替わります。新しいウィンドウを開きます。

6-6'
7-7'
側面の柱筋に平行な肘木6-6'と正面の柱筋に平行な肘木7-7'(7'の部分は6'の陰になって見えません)は,大斗の上で直交して枠肘木になっています。

写真8: 隅の組物(隅肘木より上)

この葉っぱをクリックすると,数字を書き込んでいない写真に替わります。

8
10-10'
隅肘木は大斗の上に載って,斜め(正面の柱筋からも,側面の柱筋からも45度の向き)に伸びています。長さは,6-6'や7-7'の肘木よりも長く,それらの「ルート2」倍になっているのだろうと思います。

少しまえの「d 大斗」のところでも書いたように,隅肘木を枠肘木よりも厚く作って,隅肘木と枠肘木のあいだに隙間ができないようにすることもあるようなのですが,蒼柴神社の拝殿では,隅肘木と枠肘木がおなじ厚さに作られているようです。

隅肘木を枠肘木よりも厚く作るという方法には,隅肘木のほうが枠肘木よりも長くなりますので,隅肘木を枠肘木よりも太く(厚く)作るという考えも含まれているのではないかと思います - もっとも,肘木の実質的な「太さ」は,肘木の先のほうの見えている部分ではなく,斗の上の,肘木が重なっている部分の作りかた(仕口の作りかた)にもよりますので,遠くから見た様子だけでは,ナンともいえないだろうとは思うのですが。

9-9'通肘木の先端(9')は木鼻(きばな)になっています。木鼻には,元の材料(この場合は通肘木)の端部を使って(そこに彫刻をして)作る場合と,別の材料を使って作り,あとで元の材料の先端に取りつける(掛ける)場合があるようですが,ここでは後者の方法が使われているように見えます。このような方法で作られたは「掛鼻(かけばな)」と呼ぶようです。

木鼻のディザインはいろいろに分類できるようなのですが,ここで使われているのは「拳鼻(こぶしばな)」というものだろうと思います - 拳鼻というのは大まかな括りを示すために使われる用語のようで,拳鼻といわれるものでも,細かいところは色々に変化するようです - その一つひとつに呼び名があるのかどうか,つまり,拳鼻のなかでの分類があるのかどうかは,まだ分かりません。

ちなみに,「11」は正面の通肘木の木鼻です。側面の通肘木の木鼻(9')が横から見たところなのに対して,こちらは木鼻の正面(通肘木の延長線上)から見たところになっています。

写真8: 隅の組物の上部(隅肘木~実肘木)

少し上に貼った写真をもういちど貼りました。

この葉っぱをクリックすると,数字を書き込んでいない写真に替わります。

o
隅肘木の先に鬼斗が載って,直交する一組の肘木(「10-10'」と「12-12'」)と「13」の木鼻を載せています。

「鬼斗が」と書いてはみたのですが,木鼻(13)は掛鼻のように見えますので,「13」の反対側(鬼斗の斜めうしろ側)には,なにもないような気がします。もしそうだとすると,斗の隅の「柱」は3本になり,鬼斗では「ない」のかも知れません - 鬼斗というのは,隅の2本の「柱」を鬼の角に見たてての呼び名だと思いますので* ,「3本では(ドーなんだろう)」と気になります(鬼のなかに,角が3本あるものがいれば,それはそれでよいのでしょうが)。

*
「鬼斗」という名前のいわれについて,このように説明したものにはまだ出合ったことがないような気がします - それで,このように書いてはみたものの,ちょっと不安が残ります。

10-10'この肘木は,枠肘木や秤肘木に使われていた,斗が3つ載っている肘木よりも長く,小斗が4つ載るように作られています。小斗を4つ載せた組物を「連三斗(つれみつど)」というようです - 4つ載っているのに「三斗」といのはこれ如何に,という気がしないでもないのですが ...。

13
この木鼻は,隅木(18)の下にありますが,隅木とは接していないようですので,装飾のため(だけ)に付いているようです。木鼻のなかには,上に「延斗(のびと)」という斗(形は巻斗に似ていて,巻斗よりも少し長く作られるようです)を載せて,一段上の隅肘木や隅木を支えるものあるようなのですが,蒼柴神社の拝殿では,そのような方法は使われていないようです。

14-14'実肘木の右端(14)には繰形が付けられていますが,左端(14')には繰形がなく,まっすぐに切り落とされただけになっています。

15
正面の丸桁を支えている実肘木の端部も,側面のとき(14')とおなじように,繰形は付けられず,まっすぐに切り落とされて,四角い断面が見えています。

16', 17丸桁の端部は,上のほうが斜めに削られたり,両側に段ができるように削られて垂木に接し,垂木を支えているように見えます。

18
隅木は「軒の重さが荷重」「丸桁(正面の丸桁と側面の丸桁が交差したところが支点」「小屋組のなかに固定された隅木の端部が力点」のように作られた梃子になっているらしく,軒を(少なくとも,木負や茅負の端部を)支えているようでした - 隅木の力は,建物の隅から離れたところまでは及ばすに,軒の裏に組み込まれた桔木(はねぎ)や力垂木で支えられているようなのですが。

この葉っぱをクリックすると,隅木と軒(垂木や木負・茅負)の関係が分かる写真に替わります。木負は,地垂木の先端より少し内側にあり,茅負は,飛檐垂木の先端より少し内側にあります。茅負の上に見えているのは「裏甲(うらごう,うらご)」と呼ばれる化粧板だろうと思います。



1) 前 久夫『古建築のみかた図典』東京美術選書22, 東京美術, 175pp., i-xv(事項検索), 1980.8
2) 前 久夫『古建築の基礎知識』光村推古書院, 269pp., I-V(建築史略年表), 1986.4
3) 瓜生 中『古建築の見方・楽しみ方』PHP研究所, 317pp., 2000.1
4) 武井豊治『古建築辞典』理工学社, 280pp., 2003.7
5) 太田博太郎, 藤井恵介(監修)『【カラー版】日本建築様式史, 』美術出版社, 増補新装, 226pp., 2010.4
6) 西 和夫『図解 古建築入門 日本建築はどう造られているか』彰国社, 147pp., 1990.11
7) 中村達太郎(著),太田博太郎・稲垣栄三(編)『日本建築語彙〔新訂〕』中央公論美術出版, 616pp., 2011.10
8) 妻木靖延『図解 ここが見どころ! 古建築』学芸出版社, 122pp., 2016.9
9) 永井銈次郎(編)『蒼柴神社誌』蒼柴神社社務所, 42pp., 1927.3
10) 永井銈次郎(編)『蒼柴神社誌』蒼柴神社社務所, 44pp., 1931.6
文献10)は,文献9)とほとんど同じ内容ですが,巻頭の写真がすべて入れ替わっています。文献9)の写真と同じ対象を撮ったものも,別の機会に撮られたもののように思われます。
W) Wikipedia, https://ja.wikipedia.org/wiki/
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